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- 作者: 太宰治
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1990/11/20
- メディア: 文庫
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これは就活しているときに読んで、とてもダウナーになったのですが、今回はそんなことはありませんでした。
むしろなんだか胸がきゅううんとなるような非常に切ない気持になりました。
前は薬をやったり、アル中になったり、妻の服を質に入れたりととにかく「行為」に目が行って「こりゃ人間失格だな」と思ったもんなんですが、今回はどちらかというと最後の最後に銀座のバーのママがいう「神様みたいないい子でした」というセリフに近い感覚を覚えたのです。
今、自分には幸福も不幸もありません。
ただ、いっさいは過ぎてゆきます。
自分がいままで阿鼻叫喚で生きてきたいわゆる「人間」の世界において、たった一つ、心理らしく思われたのは、それだけでした。
ただ、いっさいは過ぎてゆきます。
妙に心に残った文章です。さりゆく一切は比喩にすぎないといったのは誰だったか?
みんな道化を演じて生きてるんじゃないか。でも、人間って確かに怖いよね。何考えてるかわからないし。
でも世間なんて個人じゃありませんか。世間虚仮ですよ。
今回は、葉蔵くんは人間、失格と思えなかった。ダメなやつなんだけど、思いつめる方向が間違っているんだけど、でも解説に太田治子が書いているように、銀座のバーのママが言ったように、心のやさしい人だったんじゃないかと思います。
そういう意味で表紙の出来はいいんですけど、あっていないような気がしました。葉蔵はあんなニヒルな笑い方しないもん。