これに上下が付きます。画像が中しかなかったので、あしからず。


 ずいぶん前に読んだ本なんですけど、唯一といっていいほど、室町幕府第13代将軍足利義輝について書いている小説なので、紹介しておきます。

 そもそも足利義輝って誰?って話なんですけど、上述のとおり、室町幕府の将軍(1536生〜1565没)です。剣豪将軍というのは、この人は当代随一の剣豪と呼ばれたくらい剣の強かった人らしいです。

 劇中では、朽木鯉九郎という若者(近江国高島郡朽木の住人で歴代足利将軍家が京都を追われた際に宿所としていたことで、将軍家とは縁のある一族。近江佐々木氏の流れを汲むらしい)に剣の初歩を学び、一介の武者修行に扮して鹿島神流の塚原卜伝に剣を教わり、剣の道を修めています。

 一介の武者修行になったというのは作り話でしょうが、義輝自身は相当の使い手だったことが、当時の史料から推察されます。


 中身は、将軍義輝の苦悩と修行と愛を織り交ぜつつ、凋落していく足利将軍家を再興すべく立ち上がるという壮大なストーリー。当然、時代は戦国時代。細川政元三好長慶、斉藤道三、織田信長武田信玄などの大名連中も出てきます。他にも、剣豪義輝としてのライバルも出てきて、最後の最後まで義輝と戦います。
 
 なんといっても、濃くていやらしいキャラクターなのが、松永弾正久秀です。義輝を殺そうと画策する劇中最大のライバルとして描かれています。蝙蝠みたいな容姿をして、陰でこそこそ義輝に刺客を送ったり、策を弄したり、いやなやつです。


 成人した将軍義輝は東奔西走して、大名連中と向き合い、将軍家の権威昂揚を図るとともに、松永弾正を失脚させようと色々と画策します。このあたりの政治劇も「ありえねえだろ!」って思うところもあるんですが、義輝の豪胆なところとか鯉九郎の策略とが光ってかっこいい!!


 結局、将軍義輝は松永久秀三好長逸らの軍勢に御所(室町通下立売下る、現平安女学院校内)を包囲され、弑殺されてしまいます。しかし義輝は源氏累代の鎧を身にまとい、最後まで、白刃を振るったのでした。強く儚い者たちの物語です。


 実際の義輝は、細川や三好の勢に追われ、かなり長い間、朽木館に留まっていたようです。改元があったことを知らされていなかったという事件もあります。小説では館に留まっていた間のことを、代役を立てて、義輝は武者修行の旅に出るという話にしています。

 一方で京都に帰ってきてからは、諸大名間の対立の調停をしたりとかして、将軍権力の昂揚に勢を注いでいたことも事実らしいです。結構その方策がうまくいっていたようで、尊氏義満の再臨とまで言われていたという話を聞いたことがあります。

 だからそれを快く思われない松永などの新興勢力に滅ぼされてしまったんでしょうね。

 この小説は、最後は史実に則って、主人公を殺します。でもそれが儚さを増してくれて、読者の哀愁をさそう。やっぱこの小説好きです。