ぼくは猟師になった

ぼくは猟師になった

千松信也『ぼくは猟師になった』

ジュンク堂の自然科学コーナーにおいてあって、気になったので買ってしまった。


最近、こういう獣肉を扱うことに強い関心が向いてきた。猪食べたのもその一環なんだわ。


ともあれ、内容は著者が猟師になった経緯から猪・鹿の狩猟の方法、猪・鹿の捌き方、調理方法、保存方法、皮なめしなど非常に興味深いものだった。他にも鴨や雀猟の方法、漁労、山菜摘みについても簡単に触れている。この著者は京都に住んでいるらしい。どこだろう?


狩猟には色々方法があって、一番有名なやり方は銃を使うことであるが、著者がやっているのはワイヤーの輪っかを使った罠猟である。


直径4mmの鋼鉄製のワイヤーを使って、獣の足を引っかけて、その獣に近づいて殴って気絶させて、心臓をナイフで突いて失血死させる方法である。

トゲトゲのついた足かせではない。それはイタチとかテン等小動物を捕まえるために使うものらしい。


獣はすぐに解体処理を始める。血抜きが大切である。死んでいると血がたまって臭くなりとても食べられないそうだ。


首筋から腹を裂いて、すぐさま内蔵を引きずり出す。それから肛門や膀胱など便がたまっている部分は慎重にやらないと大変なことになる。胆嚢もつぶしてしまうと相当苦い汁が出るので肉がダメになってしまうのだが、これを干すと胃薬になる。


その後、冷たい水でよく体内を洗って、腹を針金で結んで麓まで運び出す。この状態の獣をハラ抜きという。猪も鹿も同じようにハラ抜きを行う。


家に帰ってから、猪をばらしていくのだが、写真付きで詳細にやり方がわかって興味深い。


まず皮をはぐ。足から腹に向けて切り込みを入れてはいでいく。皮下脂肪がうまいので、それを残すように皮をはぐ。その後、猪の場合、足の腱にフックを引っかけて、頭を首で切り落とし、その後背割りにして半分にする。のこぎりで背骨を切る。その後骨抜きをする。内側に付いた内臓のかすや血を拭き取ったり、あばらを取るなどの工程を経て、肉を部位ごとに切ってパックに入れて保存する。



こうして取った猪はとてもうまいらしい。ぼたん鍋だけでなく焼き肉などいろいろな食べ方で食べるし、ぼたん鍋にしても味噌で煮るのではなく、水炊き風にしてポン酢で行くのだけど、臭みは全くなく非常にうまいらしい。


鹿もたたきや刺身にして食べられるらしく、食感はマグロに近いらしい。猪と違って鹿は皮下脂肪もほとんどないらしい。



毎年11月15日は京都の狩猟解禁日で、その日から年内はおいしい猪が捕れるらしい。でも著者はそれを販売して生計を立てているわけではなく、著者にとって狩猟とはまえがきにあるように基本的には「自分で食べる肉は自分で責任をもって調達する、という生活の一部のごく自然な営み」である。


取った肉はすぐに食べるものもあれば、燻製など保存措置を施して、極力全て食べるようにしているし、友達を招いて解体から手伝わせて、猪パーティーをすることもあるそうだ。


食べられない部分は、すぐに山に埋める。そうすると狸など肉食動物が食べてくれるので、山に帰っていく。



こういう本の内容だと、エコだの自然生活だのマクロビの臭いがするかと思いきや、そういった主張はあまり多くなく色合いも薄い。前近代では当たり前にやっていたであろう事を、やりたいようにやっているだけに見えるところも、読んでいて面白かった。


自然の恩恵に対する畏敬の念を持っているのと同時に、猪や鹿を見るときに獲物として見ている著者の見方は、狩人である。


他にも鴨や雀を取る方法も掲載されているのだけど、めんどいので割愛する。



怪しい自然生活に還ろう的な臭いのしない本である。知りたいことが載っていた。


でも俺にはできそうにない。罠を仕掛けたら、毎日毎日見回りに行かないといけないし、解体も大変だ。


哺乳類を殺して食料にする当たり前の現実について考えてみたいと思っていたときに、出会った面白い本であった。


うまい猪や鹿など獣肉食べたいなあ・・・