蒲田戦記

蒲田戦記

佐佐木吉之助『蒲田戦記』

私と同世代に人はあまり知らないと思うが、バブルの頃一世を風靡したといわれる桃源社社長佐佐木吉之助氏の自伝である。


1987年、JR蒲田駅国鉄跡地の払い下げの競売から端を発する一連の事件の話である。莫大な金額で落札した桃源社は、その後日本一の銀行と謳われた日本興業銀行、今でも勇名を馳せる鹿島建設、新井将孝元衆議院議員および橋本龍太郎元首相の筆頭秘書小林豊機をも相手にした泥沼の事件を相手にしていき、巨万の富を手に入れるはずが、銀行や鹿島、そして国の罠にはまり一挙に転落、逮捕されるまでに至る顛末を書いたもの。

JR蒲田駅は羽田に近いため、羽田湾岸との一体開発を狙っていた日本興業銀行鹿島建設を筆頭とした官財民の巨大グループは、一介の不動産屋に落札されたために蒲田払い下げ地を取り戻し莫大な利益を得ようと画策していたのだ。

当時はまだ小学生でこのことは全然覚えていないし、テレビをつけたら「住専住専」とうるさかったことだけを記憶している。


一読後の感想としては、ことの事実関係や真実はともかくとして、銀行や鹿島、政府のやり口のあまりの汚さに、驚天動地、奇想天を動かすとはこのことよと思わずにはいられない。


例をあげると
1.桃源社が落札した跡地のプロジェクトに融資契約を結んでおきながら、契約不履行を平然とやってのけること。
2.鹿島と銀行は結託して、施主桃源社の跡地開発の商業施設を未完成前に勝手に登記を行う、そのための委任状を勝手に作成するなど、違法行為を平然とやってのけること。
3.銀行は既成事実を積み上げてきながらも政界や暴力団を使って桃源社所有の不動産に賃借権や抵当権を勝手につけて桃源社を封じ込めることを平然とやってのけること。
4.それをしていたのが、東大慶大出のエリートであり、道徳や道義、倫理も何もなく悪事を平然とやってのけること。


こんなところであろうか。もちろん佐佐木吉之助の視点から書かれたことであって一概に信用はできないが、本人が知らない間にことが進んでいたと記述していることを見ると、その手際のよさまた浅ましさとおぞましさに唖然とするばかりである。



佐佐木吉之助は事件だけでなく、日本経済全体についても非常に興味深い洞察を行っておられる。この本が2001年に書かれたこともあって、現在に通ずることもあり、不動産に従事する者だけでなく経済や法律を学んでいる方々にもお勧めしたい良書である。(といってその経済論を云々することはできないので、ここではしない)


私どもバブルを経験していない人間にはとても想像のつかない世界である。私たちはバブル崩壊後の暗澹とした社会を青春として過ごしてきた。周りの大人たちは口を開けば「不況だなあ不況だなあ」とぼやいていた。自分たちに責任は一切ないという口ぶりである。お前らその時なにしてたんだよと、子供ながら思ったものだ。



現在は不況を脱しつつあるというものの、地方格差は広がるばかり、景気回復感のないまま言葉だけが先行しているようだ。バブル崩壊後の「失われた10年」の延長にある現在、こういうバブルを回想した本はもっと読まれてもいいのではなかろうか。

「バブルを繰り返してはならぬ」と巷では風聞されているが、「じゃあバブルってなんだったの」という議論は欠落しており、その時の失敗を一定の年齢層の人たちが共有しており、我々若い世代は全然わからないまま取り残されているように感じる。



どうして崩壊したのか、佐佐木吉之助氏は政府主導の総量規制に端を発しており、国策の失敗と結論付けている。巷では地価が上がりすぎて、それが一気に暴落したみたいな認識だけど、もっと踏み込んだ分析はないのか。ってか若い人はそれくらいの認識しか持ってない。


だって物心ついた時には終わってたし、関係なかったからね。


都心ではバブル再来といわれている。



この先どうなるのだろうか。